第4章 サービス・業務企画

第4章 サービス・業務企画

PJMOは、 制度所管部門、業務実施部門及び情報システム部門が連携し、提供者の視点ではなく利用者の視点からの検討を通して、本章に規定された事項を実施する (1) ものとする。

また、情報システムの更改又は機能改修を行うときは、利用者のニーズ及び利用状況等に応じて、既存のサービス・業務の継続必要性についても判断するものとする (2)

1. はじめに

プロジェクトは、政策目的やプロジェクトの目標を達成するための活動であり、それらは業務の実施を通した行政サービスの提供によってなされるものである。今後、急速に変化する社会に対応しつつ、行政の費用対効果を高めていくには、これまでの提供者視点ではなく、利用者視点でサービス・業務をデザインし、利用者にとっての価値を最大化するサービス提供を行っていく必要がある。そのためには、既存のサービス・業務の枠内にとらわれず、利用者にとって「すぐ使えて」「簡単で」「便利」なサービス・業務を検討することが必要不可欠である。

本章は、このような問題意識に基づき、プロジェクトで実現すべきサービス・業務を企画するために必要な一連の活動を定めるものである。

2. 解説
(1)「情報システムを新規に整備するときには、制度所管部門、業務実施部門及び情報システム部門が連携し、提供者の視点ではなく利用者の視点からの検討を通して、本章に規定された事項を実施する」

「制度所管部門、業務実施部門及び情報システム部門が連携し」とは、情報システム部門の職員だけではなく制度所管部門や業務実施部門の職員も適切に参画してプロジェクトに直接的に関係する職員によってPJMOを構成するとともに、プロジェクトに間接的に関係する制度所管部門、業務実施部門、情報システム部門とも情報共有、調整を進めながら検討を行うことを指す。

「提供者の視点」とは、提供するサービス・業務を所管するPJMOがその枠内のみで検討を行い、利用者のニーズや他組織、他部門が所管するサービス・業務については感知しないという検討姿勢のことである。

「利用者の立場からの検討」とは、「提供者の視点」とは逆に、利用者がサービスを受ける必要が生じた時からサービスの提供後まで(エンドツーエンド)の行動全体を一連の流れとして考えた上で、関係する他組織や他部門とも相互に協力を行いながら利用者のニーズを考慮してサービス・業務の全体を改革するという検討姿勢のことである。

(2)「情報システムの更改又は機能改修を行うときは、利用者のニーズ及び利用状況等に応じて、既存のサービス・業務の継続必要性についても判断するものとする」

「利用者のニーズ及び利用状況等」とは、利用者の行政サービスに求める要望、行政サービスの利用頻度や利用方法等の実態、及び、そこから把握できる行政サービスの課題等を指す。

「既存のサービス・業務の継続必要性についても判断する」とは、プロジェクトの初期に計画した目的、目標に対する現時点での達成状況を確認した上で、利用者への提供価値や費用対効果を踏まえて、今後もプロジェクトを継続することが妥当であるかを判断することを指す。詳細は「4.軌道修正」を参照。

1. 心構えと視点

デジタル技術を活用して利用者中心のサービス・業務改革を推進するためには、利用者のニーズを把握した上で、利用者の立場からの検討に基づいて業務要件を定義する必要がある。そのために、十分な検討期間と体制を確保した上で(1)サービス利用者の行動等に着目したサービスデザイン思考で、現状把握、分析、検討、調整等を実施する (2)ものとする。

利用者中心の行政サービスを提供するために必要となる心構えと視点を、「サービス設計12箇条 (3)」(「デジタル・ガバメント実行計画」参照)として次に示す。

サービス設計12箇条(3)

[1] 利用者のニーズから出発する

[2] 事実を詳細に把握する

[3] エンドツーエンドで考える

[4] 全ての関係者に気を配る

[5] サービスはシンプルにする

[6] デジタル技術を徹底的に活用する

[7] 利用者の日常体験に溶け込む

[8] 自分で作りすぎない

[9] オープンにサービスを作る

[10] 何度も繰り返す

[11] 一遍にやらず、一貫してやる

[12] システムではなくサービスを作る

1. 趣旨

従来のサービス・業務は、利用者にとっての効率性、即時性、簡便性等の観点ではなく、制度所管部門や業務実施部門等の管轄範囲に基づいた提供者視点から設計されることが多く、利用者のニーズに沿っているとは言い難い状況である。

サービス・業務が目的どおりに機能して利用者の価値を高めるためには、利用者に「使わせる」という従来の視点から、利用者に「使っていただく」という視点へと、抜本的に変えることが求められる。また、視点を変えるだけでなく、利用者視点でのサービス・業務企画に適した調査手法や検討手法も活用することが望ましい。

本節は、こうした前提を背景として、PJMOがサービス・業務を企画する際に、現状把握、分析、検討、調整等の活動を通して一貫して利用者視点で企画を進めることができるよう、心構えと視点を改めて認識することを目的として記述したものである。

なお、サービス・業務の抜本的な効率化と利便性の向上を図るため、「デジタル・ガバメント実行計画」(平成30年7月20日デジタル・ガバメント閣僚会議決定)において示された次の3原則に沿い、行政サービスの100%デジタル化を前提として検討する。

・デジタル・ファースト
個々の手続・サービスが一貫してデジタルで完結する。

・ワンスオンリー
一度提出した情報は、二度提出することを不要とする。

・コネクテッド・ワンストップ
民間サービスを含め、複数の手続・サービスがどこからでも/一か所で実現する。

2. 解説
(1)「十分な検討期間と体制を確保した上で」

「十分な検討期間と体制を確保」とは、利用者中心のサービス検討に当たり、自部門だけでなく他組織や他部門の管轄業務との調整が発生することを想定した上で、現状把握、分析、検討、調整等のための十分な期間を確保するとともに、サービス・業務改革を行うための権限を持つ責任者を検討体制に組み入れ、検討の実務作業を実施するための十分な職員数と実稼働量を確保することを指している。

なお、検討の実務作業に対して、職員の実稼働量を十分に確保できない場合や専門的な知識を持つ外部の人材が必要となる場合等は、検討作業の一部について事業者への支援委託を行うこともできる。ただし、この場合においても関係者調整や検討内容決定の責任はPJMOにあることを認識し、検討自体を事業者に一任しないように留意すること。

(2)「サービス利用者の行動等に着目したサービスデザイン思考で、現状把握、分析、検討、調整等を実施する」

「サービス利用者の行動等」とは、サービスを利用すると考えた時点からサービスを受けたことにより目的を達成した時点、又はサービスを享受し終わった後までの一連の行動や行動に伴う感情を含めた思考、利用者のニーズや行動を決定する特徴や制約を指す。

(3)「サービス設計12箇条」

「サービス設計12箇条」とは、利用者の価値最大化を主眼としてサービス・業務企画を行うため、利用者中心の行政サービスを提供しプロジェクトを成功に導くために必要となるノウハウをまとめたものである。

「サービス設計12箇条」の解説については、「サービスデザイン実践ガイドブック」を参照すること。

2. 現状の把握と分析

PJMOは、 提供する範囲を含むサービス・業務全体を分析対象とし、例えば、次の1)から7)までに掲げる現状の把握と分析を行うことにより、利用者のニーズや現状のサービス・業務を把握し、問題点を抽出する (1) ものとする。

情報システムの更改又は機能改修を行うときには、既存サービス・業務の継続性についても検討する。

1) 利用者の把握と分析(2)

サービス・業務を利用することで価値や効果を得られる者・組織のそれぞれの規模、特徴、行動、満足度、要求事項等

2) 環境の把握と分析(3)

サービス・業務に影響する関連法令の存否、影響度、改善の必要性、サービス・業務を取り巻く現在の環境、将来の環境変化の見込み等

3) 業務の把握と分析(4)

サービス・業務の内容、業務量、実施体制、実施時期・時間、実施場所、運営実績、各種指標の状況、残存課題等

4) 既存の情報システムの把握と分析(5)

既存の情報システムの資料及び残存課題等

5) 情報システム運用の把握と分析(6)

情報システムの運用実績、各種指標の状況、残存課題等

6) データの把握と分析(7)

情報システムのデータの内容・流れ、量、品質、保有形態、管理プロセス、オープンデータとしての公開状況等

7) 関連調査(8)

類似するサービス・業務の存否、取り扱うデータに関する標準化状況、優良事例、失敗事例及びその要因等

1. 趣旨

利用者の価値を最大化するサービス・業務を企画するためには、多様な利用者のニーズやサービス・業務の提供状況を事実に基づいて的確に捉えることが必要不可欠である。

このため、現状の把握と分析に当たっては、まず現場へ行き、現物を見ることで、実際に発生している状況を捉えることが重要である。そして、把握した事実に基づいて利用者、サービス、業務、情報システム等の各観点から対応すべき利用者のニーズや改善すべき問題を抽出する。

これらの把握・分析活動が十分に行えていないと、仮説や推測に基づいてサービス・業務企画を行うこととなり、実際の運用段階になって様々な問題が露呈することになりかねない。プロジェクトの成否は、現状把握と分析の精度に大きく影響を受けるため、十分な期間と体制の下で現状の把握と分析を行うことが求められる。

2. 解説
(1)「提供する範囲を含むサービス・業務全体を分析対象とし、例えば、次の1)から7)までに掲げる現状の把握と分析を行うことにより、利用者のニーズや現状のサービス・業務を把握し、問題点を抽出する」

「提供する範囲を含むサービス・業務全体を分析対象とし」とは、利用者がサービス・業務を利用する際には、自部門だけでなく他組織や他部門の管轄業務が提供するサービス・業務を含むことがあるため、利用者がサービスを利用する前からサービス利用後の行動までを含む利用者から見たエンドツーエンドの範囲を現状の把握と分析の対象とすることを指す。

「問題点を抽出する」とは、利用者のニーズや政策目的やプロジェクトの目標の達成を阻害する要因を明らかにし、その根本となる原因を特定し分類することである。

分析等で収集する情報、情報収集の手法、分析・可視化手法、分析内容の例を表4-1に示す。

なお、これらの情報収集や分析は、対象とするサービス・業務や情報システムの特性に応じて、収集する情報や手法を選択して実施する。

対象

収集する情報

情報収集の手法

分析・可視化手法

1) 利用者

・利用者の種類

・利用者の母数、利用者数

・利用頻度

・利用方法

・利用する時間帯、場所

・利用者の性別、年齢層

・利用者の行動

・利用者の満足度

・利用者の要望

・アンケート

・インタビュー

・観察

・意見の公募

・一覧化

・ペルソナ

・ジャーニーマップ

2) 環境

・関連する法令

・経済情勢

・社会情勢

・技術動向

・ドキュメントの収集

・有識者へのヒアリング

・一覧化

3) 業務

・サービス・業務の内容

・サービス・業務の流れ

・サービス・業務量

・実施体制

・実施時期・時間・ピーク性

・実施場所

・運営実績

・各種指標の状況

・残存課題

・ドキュメントの収集

・既存情報システムからのデータ収集

・インタビュー

・観察・測定

・アンケート

・一覧化

・ツリー図

・業務フロー

・滞留状況分析図(ヘビ図)

・ユースケース

4) 既存の情報システム

・情報システムの内容

・外部インターフェース仕様

・残存課題

・ドキュメントの収集

・ヒアリング

・一覧化

5) 情報システム運用

・運用実績

・運用・保守コスト

・各種指標の状況

・残存課題

・ドキュメントの収集

・実績データの収集

・ヒアリング

・一覧化

・グラフ

・ヒートマップ

6) データ

・データの内容

・データの流れ

・データの保有形態

・データ量データ品質

・データの管理プロセス

・オープンデータとしての公開状況

・情報セキュリティレベル

・ドキュメントの収集

・既存情報システムからのデータ収集

・実績データの収集

・ヒアリング

・一覧化

・クラス図

・ERD

7) 関連調査

・類似サービス・業務の情報

・過去の事例

・ドキュメントの収集

・ヒアリング

・一覧化

表4-1 把握する情報、情報収集の手法、可視化の手法、分析内容の主要な例


(2)「1) 利用者の把握と分析」

「利用者の把握と分析」とは、利用者となり得る具体的な対象者及び規模を特定した上で、利用者中心で行政サービスを検討する上で基礎となる利用者の特徴、行動、満足度、要求事項等を把握し分析する活動である。

(3)「2) 環境の把握と分析」

「環境の把握と分析」とは、サービス・業務や情報システムに対して、将来変化を与える可能性のある外部及び内部の要因を把握し分析する活動である。将来変化を与える可能性のある要因には、例えば、利用者のニーズに変化を与えるような新たなデバイスの登場等の外部要因や、業務量の増減を招く法令改正・規制緩和等の内部要因が挙げられる。

ここで抽出した要因は、プロジェクト管理要領のリスク管理に従いリスクとして管理し、「3.サービス・業務企画内容の検討」で予防や軽減等の対策について検討する。

(4)「3) 業務の把握と分析」

「業務の把握と分析」とは、分析対象範囲に含まれる既存の業務の内容や流れを可視化するとともに、業務量や処理時間等の実績情報の収集及びオフィス等の実施空間や業務の実施場所を把握し分析することである。

なお、新規にサービス・業務を企画するときは、類似する業務の情報を収集し分析する。

(5)「4) 既存の情報システムの把握と分析」

「既存の情報システムの把握と分析」とは、分析対象範囲に含まれる情報システムの全体像を把握し、その構成に関する情報を収集し分析することである。

なお、新規に情報システムを構築するときは、情報の連携が想定される外部システムや、類似する情報システムの情報を収集し分析する。

(6)「5) 情報システム運用の把握と分析」

「情報システム運用の把握と分析」とは、分析対象範囲に含まれる情報システムの運用・保守で実施している作業の実態を把握するとともに、モニタリング情報を収集し分析することを指す。

(7)「6) データの把握と分析」

「データの把握と分析」とは、分析対象範囲に含まれる情報システムが保有するデータ及び外部の情報システムとの連携で扱うデータ等を把握し分析することを指す。またデータそのものだけでなく、メタデータ(データ自身に関する構造、特性等を説明する情報)の整備状況等についても併せて把握する。

(8)「7) 関連調査」

「関連調査」とは、新たなサービス・業務を企画検討する際に考慮すべき前提や参考情報として、類似するサービス・業務の内容や過去の事例、及びデータの取扱いに当たって参考又は準拠すべき標準等についての情報を収集し整理することを指す。

3. サービス・業務企画内容の検討

PJMOは、サービス・業務を企画するために、次の事項を実施するものとする。

1) 課題整理

PJMOは、「2.現状の把握と分析」により得られた問題点から、利用者にとってより高い効果が見込まれる内容について、これを取り組むべき主要課題として整理する (1)

2) 企画案作成

PJMOは、取り組むべき主要課題を、利用者にとって有益かつ政策目的が実現可能な企画となるよう、 具体的なサービス・業務内容とその結果から期待される効果について、多角的に検討し、適切な効果見積りに基づく企画案を作成するものとする (2) 。なお、企画の内容について、情報システムの利用を促進するために、有効な施策を検討する (3) ものとする。その際、必要に応じ内閣官房及び総務省の支援を得ながら、サービスデザインの手法の活用を検討するものとする。

また、 当該業務のみならず、関連組織の関係サービス・業務にも影響が及ぶと想定される場合には、PJMOはPMOの支援を受け、当該関係サービス・業務を所管する者と調整・協議を行う (4) ものとする。

1. 趣旨

「2.現状の把握と分析」で多くの問題点が収集されるが、優先順位を把握せず、問題を解決することは効率的ではない。また、検討した企画案がどの問題を解決するのかが不明確になり、十分な効果を得られないおそれがある。

このため、課題を整理し、課題の重要度や優先度を把握するとともに、課題の本質的な原因を特定した上で、それに対する有効性の高い企画案を作成することにより、高い費用対効果を得られるサービス・業務の提供を実現する。

2. 解説

1) 課題整理

現状の把握と分析にて抽出した現状の問題点は、個々の視点から提起したものであるため、プロジェクト全体の目標達成に対する重要度を考慮する必要がある。

このため、PJMOは、プロジェクト全体の観点で現状の問題点を精査し、重点的に取り組むべき主要課題として定義する。

(1)「利用者にとってより高い効果が見込まれる内容について、これを取り組むべき主要課題として整理する」

「取り組むべき主要課題」とは、解決することにより、利用者の利便性が向上し、ニーズを満たすことが期待できる課題をいう。

サービス・業務を提供する担当者や情報システムを管理する担当者が抱える課題は、解決した結果として利用者にもたらす効果を基に、対応の優先順位を付けることに留意する。

2) 企画案作成

「1) 課題整理」で定義された主要課題は、根本原因の解決策、解決により達成が期待される効果、及び、企画として実現するための具体的な手段を具体化し、企画案として明らかにする。

なお、具体的な手段として、今後継続的にサービス・業務の提供が可能な新しい技術・手法を用いることに留意する。

(2)「具体的なサービス・業務内容とその結果から期待される効果について、多角的に検討し、適切な効果見積りに基づく企画案を作成するものとする」

「多角的に検討し」とは、業務手順や制度変更等の情報システム化以外の実現手段、新しい技術や開発手法を含む複数の実現方式、実現手段と実現方式を組み合わせた達成効果の試算等を比較し、検討することである。

(3)「なお、企画の内容について、情報システムの利用を促進するために、有効な施策を検討する」

「有効な施策」とは、利用者にとって有益かつ政策目的が実現可能な企画がもくろみどおりに効果を上げるよう、情報システムの利用者の数や利用頻度を増やすために行う活動及び仕組みを指す。利用促進のための施策は、情報システムの利用者の種類、特性及び利用において配慮すべき事項を考慮して検討する。

(4)「当該業務のみならず、関連組織の関係サービス・業務にも影響が及ぶと想定される場合には、PJMOはPMOの支援を受け、当該関係サービス・業務を所管する者と調整・協議を行う」

「当該業務のみならず、関連組織の関係サービス・業務にも影響が及ぶと想定される場合」とは、当該サービス・業務と連携する関連組織のサービス・業務の内容や実施方法等に、影響を与えることが想定される状況を表す。

なお、関連組織の関係サービス・業務に影響を与えないと判断した場合にも、PJMOは、関係サービス・業務を所管する者に対し当該サービス・業務の変更内容に関する情報共有を行うことを推奨する。

4. 軌道修正

PJMOは、 プロジェクト初期に構想したサービス・業務企画の方向性等が、「3.1) 課題整理」で得られた結果又は「3.2) 企画案作成」で作成した企画案とかい離がある場合、プロジェクト計画の修正を検討するものとする (1)

1. 趣旨

プロジェクト立上げ時において、新しいサービス・業務の企画内容・方向性を定義している。

その後、現状把握及び分析を経て、事実に基づきサービス・業務企画内容を作成するが、その結果と当初定義した内容と大きくかい離することがある。大きくかい離した状態を無視し、当初方針のままプロジェクトを続行した場合、利用者に使われないサービスの提供、プロジェクトの遅延、予算の超過等、プロジェクトの失敗を招く可能性がある。

これらプロジェクトの失敗を防ぐためには、当初の方針と新しく作成した企画案とのかい離内容を把握し、当初の方針に固執することなく、関係者との合意を経てプロジェクト計画を見直す必要がある。

2. 解説
(1)「プロジェクト初期に構想したサービス・業務企画の方向性等が、「3.1) 課題整理」で得られた結果又は「3.2) 企画案作成」で作成した企画案とかい離がある場合、プロジェクト計画の修正を検討するものとする」

「プロジェクト計画の修正」とは、当初立案したプロジェクト計画の内容を見直しすることである。見直しの対象としては、例えばプロジェクトの体制、スケジュール、目標、企画の方向性等が挙げられる。見直しの方法としては、プロジェクト初期に定義したサービス・業務企画の方向性と、「3.1) 課題整理」で得られた結果又は「3.2) 企画案作成」で作成した企画案とを比較する手順とする。プロジェクト計画書の修正を行ったときは、その内容について、必ず関係者との合意を再度形成する。

「かい離がある場合」とは、比較の結果に相違点があることを指す。次に例として挙げる相違点が把握されたときには、プロジェクト計画の内容見直しのみならず、プロジェクト継続の必要性有無も含めて検討する。

・作成した企画案に必要となる要員と当初予定した要員のスキル・経験がかい離し、必要となる要員が手配できず、体制が組めない

・作成した企画案を実現するスケジュールが大幅に延び、サービス・業務が求められる提供時期を達成できない

・目標にしていた主要な目標が達成できないか、想定している効果が大幅に得られない

・システム化を行う企画内容が業務フローの変更等によりシステム化以外の手段で実現可能となった

・当初の想定に対して、大幅な予算超過が見込まれる

なお、「3.1) 課題整理」で得られた結果又は「3.2) 企画案作成」で作成した企画案とかい離がない場合は、プロジェクト計画に従って工程を進めることで構わない。

5. 業務要件の定義

PJMOは、作成したサービス・業務企画の内容を踏まえ、 次の1)から8)までに掲げる事項を業務要件として定義するものとする(「第5章2.1)ア 業務要件の定義」も併せて参照) (1)

また、業務要件のうち、既存の業務がある場合は、定義する業務要件と既存実施している業務との差異が、明確に把握できるよう留意するものとする。

なお、検討に当たっては、PMOや府省CIO補佐官等の支援や助言を受けることが望ましい (2)

1) 業務実施手順

[1] 業務の実施に必要な体制、手順及びそれらを記載した業務フロー図

[2] 入出力情報項目及び取扱量 等

2) 規模

[1] サービスの利用者数及び情報システムの利用者数

[2] 単位(年、月、日、時間等)当たりの処理件数

3) 時期・時間

[1] 業務の実施時期、期間及び繁忙期 等

[2] 業務の実施・提供時間 等

4) 場所等

業務の実施場所、諸設備、必要な物品等の資源の種類及び量 等

5) 管理すべき指標

業務の運営上補足すべき指標項目、把握手順・手法・頻度 等

6) 情報システム化の範囲

情報システムを用いて実施する業務の範囲及び情報システムを用いずに実施する業務の範囲

7) 業務の継続の方針等

業務の継続に伴うリスク及び基本的な考え方。なお、業務継続計画を策定する必要がある業務にあっては当該計画の策定時に検討するものとする。

8) 情報セキュリティ

業務において取り扱われる情報の格付・取扱制限等に応じた情報セキュリティ対策の基本的な考え方

1. 趣旨

業務要件とは、サービス・業務企画の内容及び手順を具体化し、情報システムに求める要求を定めたものである。

情報システムを構築するために必要な機能要件及び非機能要件は、業務要件を基に定義されるものであり、曖昧な業務要件では情報システムを構築することはできない。

業務要件定義で明らかにする各項目は、最終的に目指すサービス・業務の基礎であり、業務実施部門及び制度所管部門が中心となって検討し、政策目的やプロジェクトの目標の達成とサービス・業務の円滑な運営が、バランス良く成立することに留意して検討する。

2. 解説
(1)「次の1)から8)までに掲げる事項を業務要件として定義するものとする(「第5章2.1)ア 業務要件の定義」も併せて参照)」

業務要件は、サービス・業務に主眼を置いて情報システムに求める要求を定めるものであり、情報システムの機能を定義するものではないことに特に留意する。

なお、当項で定義した業務要件定義は、「第5章1.1) RFIの実施」の結果を受け、「第5章2.1)ア 業務要件の定義」にて、見直しを行う。

業務要件の定義対象事項を示せば、表4-2のとおりである。

c 表4-2

業務要件定義対象事項と定義内容

定義する事項

記載事項

内容

1) 業務実施手順

(1) 業務の範囲(業務機能とその階層)

業務の実施に必要な体制、手順及びそれらを記載した業務フロー図

入出力情報項目及び取扱量 等

プロジェクトの対象範囲において情報システム化されない業務を含めて、企画後の業務を構成する業務機能を階層的に整理し明らかにする。

(2) 業務フロー

企画後の業務フローとして、「誰が(どの組織が)」「何を」「どのような手順で」実施するのか、また「どの部分をシステム化するのか」を明らかにする。

特に、作業が人手によるものか自動的に行われるのか、やり取りする情報が紙なのか電子データなのかについて、わかりやすく可視化する。

また、企画を実現することにより、どの業務が効率化等されるのかがわかるように、企画前の業務フローと企画後の業務フローをAsIs(現状)/ToBe(将来)で比較できるように整理することが望ましい。

(3) 業務の実施に必要な体制

企画後の業務の実施に必要な体制を明らかにする。ここで定義した業務実施体制は、業務の運営開始までに、整備を行う必要がある。

(4) 入出力情報項目及び取扱量

企画後の業務の実施手順に沿って、入出力情報とその取扱量の見込みを明らかにする。情報システムで取り扱う情報及び情報システム以外で取り扱う情報の双方が対象である。

2) 規模

サービスの利用者数及び情報システムの利用者数

単位(年、月、日、時間等)当たりの処理件数

企画後に想定する、サービス・業務の利用者の種類とその人数や単位当りの業務処理件数を明らかにする。

規模は、それを提供するために必要となる業務実施部門の組織や人数及び整備する情報システムのハードウェア台数や稼働環境等に影響を与えるため、過小や過大にならないよう適切な規模を想定することに留意する。

3) 時期・時間

業務の実施時期、期間及び繁忙期 等

業務の実施・提供時間 等

企画後に想定するサービス・業務の「業務を実施・提供する時期・期間・繁忙期はいつか」「業務の実施・提供時間はどの程度か」を明らかにする。ここで定義する対象は、業務に係る時間であり、情報システムを利用する時間ではないことに留意する。

また、例えば、繁忙期における業務量が、企画後のシステムのハードウェア台数や稼働環境に影響を与える場合は、繁忙期の業務量を平準化する等を検討し、2)で検討する「規模」について過大とならない工夫をする。

4) 場所等

業務の実施場所、諸設備、必要な物品等の資源の種類及び量 等

企画後に想定する業務の「実施場所」や、情報システム以外に必要な諸設備、物品等資源の追加・変更の見込みを明らかにする。

ここで定義した諸設備、物品等資源を踏まえ、調達等の必要な手立てを行う必要がある。

5) 管理すべき指標

業務の運営上補足すべき指標項目、把握手順・手法・頻度 等

企画後のサービス・業務の運営上、管理すべき指標を明らかにする。

プロジェクト計画書の目標及びプロジェクト管理要領の指標管理に記載している内容を、サービス・業務企画内容の検討結果に基づき修正し、整理する。

6) 情報システム化の範囲

情報システムを用いて実施する業務の範囲及び情報システムを用いずに実施する業務の範囲

企画後に想定する業務のうち、情報システムを用いて実施する範囲及び情報システムを用いずに実施する業務の範囲を明らかにする。
なお、通常はこの時点で情報システム化の範囲はほぼ確定させることになるが、要件定義書を作成する過程で、最終的に決定することになる。

7) 業務の継続の方針等

業務の継続に伴うリスク及び基本的な考え方。なお、業務継続計画を策定する必要がある業務にあっては当該計画の策定時に検討するものとする。

業務実施部門等が定める業務継続方針を踏まえ、当該業務の停止原因となり得る要因と業務停止による影響を念頭に置き、当該業務の継続のための基本的な考え方を明らかにする。

継続の方針は、定常業務で想定される障害への対応と大規模災害等の発災時の対応を区別して、当該業務の継続を阻害する要因とその影響度を踏まえて、継続の方針を明らかにする。

8) 情報セキュリティ

業務において取り扱われる情報の格付・取扱制限等に応じた情報セキュリティ対策の基本的な考え方

企画後の業務を実施する上で必要な、情報セキュリティ対策の基本的な考え方を明らかにする。

具体的には、情報セキュリティの対象となる情報を、本表「1)(2)業務フロー及び(4)入出力情報項目及び取扱量」で特定し、自府省の情報セキュリティポリシーに準拠した格付けの区分及び取り扱い制限を整理した結果である。

(2)「検討に当たっては、PMOや府省CIO補佐官等の支援や助言を受けることが望ましい」

「府省CIO補佐官等」とは、自府省を担当するCIO補佐官以外に、他府省のCIO補佐官、外部組織の有識者や専門的な知見を持つ職員を含むことを指す。

6. 関係者への確認とプロジェクト計画書の段階的な改定

プロジェクト推進責任者はPJMO各担当者と調整し、業務改善内容の検討結果について、関係者へ適時に情報を共有し、必要な意見を収集することに努めるものとする (1)

また、適時、その結果をプロジェクト計画書に反映し、当該計画書の内容を更新するとともに、必要な情報をODB等へ登録するものとする。

1. 趣旨

サービス・業務企画を確定するに当たり、利用者を含む関係者に対して幅広く企画を周知し、プロジェクト関係者以外の視点からの意見を集め、その意見を基に実現性や効果の高い内容に更新することは、利用者のニーズに合ったサービス提供をするために効果的である。

このため、企画内容が決定した時点で、具体案を関係者へ周知する。

また、周知により得られた意見を検討した結果、企画内容等への変更が必要と判断されたときには、企画内容等を見直し、プロジェクト計画の見直しも行う。

プロジェクト計画書への反映については、標準ガイドライン解説書「第3編第2章 プロジェクトの管理」を参照すること。

2. 解説
(1)「プロジェクト推進責任者はPJMO各担当者と調整し、業務改善内容の検討結果について、関係者へ適時に情報を共有し、必要な意見を収集することに努めるものとする」

「関係者へ適時に情報を共有し」とは、各府省のWebサイト等で広く一般に公開することや情報共有Webサイトを設け特定の関係者が閲覧できるようにすることを指す。これにより、PJMOは企画内容に関する情報提供や意見交換を行い、サービス・業務企画内容の方向性を確認する。

各府省のWebサイト等に掲載した情報は、政府CIOポータルサイト等からリンクすることも可能である。

「必要な意見を収集する」とは、限定的な職員以外利用しない情報システムで事前に当該職員への調査を行っている場合は、利用者等を対象とした周知は不要であることを指す。職員向けのシステムであっても、多数の職員が利用するような情報システムが対象の場合は、周知を行う。